暑さの原因ってナンダ?

ー暑さの元を解消するにはー

暑い!ってどんな状態?・・・暑さと気温は違います。

 体温36℃の私たちは、水温36℃のお湯に浸かっても、それほど熱いとは思いません。気温だって同じはず。40℃を超える気温でもない限り、暑いと感じない…と思いませんか?人が暑いと感じる状態。それは、人と外気との熱のやりとり(熱収支)を見たとき、人が熱を受け取るときが暑いと感じ時で、気温 ・湿度・ 輻射熱で決まります。つまり、今、あなたが感じている暑い!の原因は、輻射熱かもしれません。

エアコンが効いてるはずなのに暑いのはナゼ?

 最新型の最新型の空調設備で室内温度は確実に26℃になっているにも関わらず、窓に近づくと暑さを感じで汗ばんでしまう。これもまた輻射熱の一種である日射熱のせいなんです。

 この、気温では測れない暑さを測る温度計を黒球温度計と言います。そして黒球温度は、気温と輻射熱の両方を足し算した体感温度と考えることができます。

 実際、黒球温度:Tbと気温:Taの温度差 ΔT(=Tb-Ta)は、風の影響が少ない室内であれば、日射量に比例して大きくなります。

 そして例え室温:Taが充分涼しい状態でも、ΔTが大きくなってしまうと、体感温度Tbが大きくなってしまい、暑さを感じてしまいます。

 これがエアコンが効いているはずなのに暑く感じる理由です。暑さの原因を考えるには、気温だけでなく、輻射熱も原因もよく調べる必要があるのです。

輻射熱ってナンダ? ・・・暑さが伝わる3つの抜け道

 暑いと感じる熱は、対流・伝導・放射の3つの流れでやってきます。

 熱対流とは、空気の流れと一緒に熱も流れてくる現象です。例えば換気をすれば部屋が暑くなるのが代表例です。

 熱伝導とは、壁やガラスの表裏に温度差があるとき、壁材を通過してやってくる熱の流れであり、触って熱いと感じる現象がその代表例です。

 熱放射とは、熱いもの(太陽等)から放射された様々な赤外線が、透明な空気やガラス等を通過し、人や家具に当たってそこで発熱する熱の流れです。電気ストーブが触らなくても暖かいのがその代表例です。

 そして輻射熱とは、熱放射によって流れてきた暑さのことを言います。

熱放射の正体をあばけ ・・・熱放射の正体は赤外線という光

 まずは太陽からの熱放射である日射熱の正体を確認していきましょう。太陽と地球の間には、1億5000万kmにも及ぶ巨大な真空空間、すなわちこれ以上ない断熱層が存在しています。もちろん空気の流れもありません。つまり太陽と地球の間では、熱対流も熱伝導も起こりません。

 温められたモノからは、その温度に応じて赤外線が放射されています。これが放射熱の正体です。サーモカメラでヒトの体温を測ったりしますよね?これは放射された赤外線を測定しているんです。電気ストーブが暖かいのも、熱せられた発熱体から放射熱を暖かく感じていることになります。(ちなみに温風は熱対流、カイロは熱伝導です。)


 詳しく見ていきます。絶対零度(-273℃)ではないモノは必ず赤外線を放射しています。従って、向かい合う二つのモノの間では、赤外線を交換していることになります。ただ、熱いモノから放射された赤外線の方が熱量が多いので、相殺して、熱いモノから冷たいモノへ、差分だけ放射熱が伝わったと考えることが便利になります。太陽と地球の間での放射熱の交換では当然、太陽の方が圧倒的に温度が高いですから、一方的に太陽から日射が届いていると近似することができます。日射を止める技術とはすなわち、太陽から放射された赤外線を遮ればいいことになるわけです。

 簡単じゃない!赤外線を止めればいいんだ!・・・と思いますよね。実はそう簡単にはいきません。赤外線とは、そういう特殊な光があるわけではないんです。では次に、赤外線について考えてみましょう。

 太陽が放射する放射熱には、様々な光が混ざっています。その様々な光を分類するために、光の特性の一つをとって波長で整理して考えます。太陽の放射光の中でヒトが感じることができる光の範囲を、可視光線と言います。そしてその範囲よりも波長が短い範囲を紫外線、長い範囲を赤外線と言います。でもこれってヒトの目のお話。どうやら虫の可視光領域とヒトの可視光領域はズレているようです。つまりこの分類は、単に人の視神経の都合で分類しているだけなんです。

 ちなみにこの放射スペクトルも、あくまでも太陽のお話。電気ストーブの放射光も、ヒトの放射光も組み合わせが変わります。そして赤外線も近赤外線から遠赤外線までさまざま。赤外線を止めると言っても、いろいろと考えなければなりません。

その他の放射熱はどうなってるの? ・・・赤外線もいろいろ。

 先ほどは放射熱の代表例である日射の遮蔽について詳しく考えてみました。次は、その他の熱源から放射された放射熱を考えてみましょう。

 放射熱の正体は赤外線であることはすでにお伝えしました。では赤外線とは?

 ウィキペディアで調べてみると、赤外線とは、可視光線の赤色より波長が長く、電波より波長の短い、ヒトの目では見ることができない光である。と説明されています。数字で言うと、およそ波長700 nm – 1 mm(=1000 µm) に分布するたくさんの光の総称で、さらに波長によって、近赤外線、中赤外線、遠赤外線に分けられるそう。

 近赤外線とは、波長がおよそ700nm-2500nmの電磁波で、赤色の可視光線に近い特性を持つため、「見えない光」として家電用のリモコンなどに応用されている赤外線になります。そして太陽から放射された日射に含まれる輻射熱も、近赤外線に含まれます。

 中赤外線は、波長がおよそ2.5 – 4 µmの電磁波で、あまりなじみがないかもしれませんが、化学分析の世界で良く登場する赤外線になります。特に波数が1300 – 650 cm−1 の領域は指紋領域と呼ばれ、物質固有の吸収スペクトルが現れるため、化学物質の同定に用いられています。

 そして遠赤外線は、波長がおよそ4 – 1000 µmの電磁波で、一般的に熱線とも呼ばれています。全ての物質は熱放射により、温度に応じた波長の遠赤外線を放射しています。この強度は、高温の物体ほど強く、また熱放射される赤外線の波長は温度に反比例します。これをウィーンの変異測と言います(右図)

 例えば36℃(絶対温度T=36+273=309K)の体温を持った人間が放射する赤外線のピーク波長は、2897÷309=9.4μmとなります。即ち人は、約9.4μmをピークとした遠赤外線を放射しているわけです。同じ計算をすれば、97℃の熱湯が入ったやかんからは約7.8μmをピークとした遠赤外線が、230℃になるオーブントースターでは約5.7μmをピークとした遠赤外線が放射されていることにあります。

 太陽の中心温度は約6000℃なので、放射される光のピーク波長は単純計算で500nm。高温すぎる太陽からの放射のピーク波長は、赤外線領域を通り越して可視光線の領域になっています。日射熱はそんな太陽からの放射の端の一部である近赤外線が原因となっていますが、放射熱としては例外中の例外。だから日射対策とその他の熱放射の対策は分けて考える必要がありそうですね。

暑さ指数で“暑い”を測ろう ・・・WGBT

 これまで、暑さを感じる原因を考えてきましたが、いろんなことを考える必要があり、とっても面倒そう。結果として暑いのか、暑くないのかを測る方法が欲しいところですが、気温では暑さを正しく測れないことは最初にお話しした通りです。では途中で登場した黒球温度計ならどうでしょうか?実はこの測定法では、風の影響を正しく考慮することができなくなっています。だって我々ヒトは汗をかき、風が吹くと汗が乾燥して体が冷やされる(気化熱)ではないですか?でも黒球温度は汗をかきません。そこで汗の気化熱の効果も含めてきちんと暑さを測るための方法が、既に各方面から推奨されています。これが暑さ指数(WBGT)です。

 熱中症予防で活用される暑さ指数(WBGT)は、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい気温 ・湿度・ 輻射熱で決まります。

WBGT (℃) =0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度(室内) 

で計算される暑さ指数(WBGT)を、なんとか25℃以下にしたいところですが、空調がフル運転しているはずなのに、それでも暑いと感じる場合、その原因は、

  (1)換気を強くしたので、空調能力が足りなくなり、温度が下がりきらない。

  (2)部屋の湿度が高くて、湿球温度があまり低くない。

  (3)どこからかやってくる輻射熱のせいで、黒球温度(体感温度)が高い。

そして、空調が利いているのなら、暑さの原因は、ほぼ間違いなく輻射熱になります。

 女性の方々!お化粧が崩れてしまわないように汗止めをご活用されていると思いますが、汗をかかない分、実は男性より暑く感じているかもしれません。男性は暑さに強いのではなく、汗という自前のクーラーで涼んでいるだけかもしれませんよ?

暑さの原因を探してみよう  ・・・体温より暑いもの?

熱は、原則として、温度の高いものから低いものに伝わります。だから暑さの原因となる輻射熱は、体温よりも高い場所から放射されています。

右の写真は、ある大学の校舎の窓際をサーモカメラで撮影した写真です。強い日射が当たった窓際は、差し込んだ日射の当たった床が熱いのかと思いきや、窓ガラスやサッシの方熱くなってしまっているのがよくわかります。この窓際の暑さの原因は、窓から差し込む日射だけでなく、熱く熱せられた特殊なガラスの火照りも原因になっていたのです。

暑さの原因にフタをしよう ・・・原因に適した対策を!

 原因がわかれば、涼しくするために対策は簡単…と期待したいところですが、実は結構難しかったりします。上記の場合での具体的な解決策を見てみましょう。

 先ほどの事例は、つまり日射で複層ガラスの外側ガラスが熱く火照ってしまっていました。この窓ガラスはいわゆるLow-E複層ガラスで、外側のLow-Eガラスが日射を吸収してしまい熱く火照ってしまっている様でした。

 本来ならば、外側ガラスが熱くならない様に対策をしたいところですが、高層ビルのため外から工事をしようとすると、作業のために高額な足場費用が負担になってしまいます。

 そこで発想を転換して、内側の透明ガラスに遠赤外線まで反射する特別なフィルムを貼り付けることで、火照った外側のガラスから放射された輻射熱を、室内に入る手前で反射させてみました。

 その結果、外側のガラスは変わらず火照っているにも関わらず、その輻射熱が室内に入ってくるのを抑制することができる様になりました。

 改善させた結果の熱の侵入経路は、おおよそ下記の様に変わったと思われます。

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