断熱・遮熱製品ってナニ?

ー遮熱対策製品の目利きー

熱対策製品のいろいろ ・・・目的によって使い分けましょう。

 熱対策製品には、断熱を目的としたものと、遮熱を目的としたものがあって様々。しかもそれぞれでたくさんの性能があるので、よくわかりませんよね?熱対策製品を正しく見極めるために、一つずつ確認していきましょう。

 断熱製品とは、熱伝導で熱が伝わる問題を解決する場合に使われるものになります。従って表裏で温度差がある時の熱が流れる速さで性能を比較するのがわかりやすいと思います。断熱材の性能でよく目にするが、熱伝導率と熱貫流率。この違いって何でしょうか?

 実は熱伝導率は、材質そのものの熱の伝わりやすさを示す基礎的な物性値なんですが、直感的にはよくわかりません。なぜならば、実際の熱の流れやすさは、材料の厚みでも変わります。厚ければ厚いほど熱は流れやすくなりますので、これを補正したのが、熱貫流率(U値)と言います。式で表すと右のようになります。

 この熱貫流率、実は結構わかりやすい指数です。単位は「W/m2・K」となりますが、これは、表裏で温度差が1℃のとき、面積1㎡当たり、時間1時間当たり通過する熱量が1Wであることを表します。つまり、熱貫流率は小さければ小さい方がその建材の断熱性が良いと考えることができ、また、表裏で温度差が大きければ大きいほど、その効果が実感できると期待されます。日本では、室温と外気温の温度差が大きくなる冬の夜間ほど効果を体感し、その差が少ない夏の夜間では、その恩恵はあまり得られないかもしれませんね。

 一般的な建材の熱貫流率をまとめたのが右の表になります。熱さがすぐに伝わるステンレスは別として、外壁建材の熱貫流率が10~20W/m2Kなので、冬の夜、外気温が0℃室温が20℃の時、壁から熱が200~400W/m2も入ってくることになります。ところが壁にウレタンフォームを敷いておくと、10 W/m2未満に抑えられます。確かに断熱にできたと言えそうです。

 熱対策で断熱材を選ぶなら、やはり効果を体感できるものを選びたいですね。こんな時、熱貫流率を比較するのが非常に便利になります。目安として、熱貫流率が半分以下になるものを選べば良いのではないでしょうか。

 あれ?空気の熱貫流率って一番低いですよね?一番の断熱ですよね?では、熱く火照ってしまったモノに触れなくても熱く感じるのはなぜでしょうか?

 それはモノからヒトに向かって熱められた空気が流れてきたからか(熱対流)、モノからヒトに向かって熱以外の何かが飛び出してきて、ヒトを温めてしまっているからになります。そして後者を放射熱と呼び、その正体は遠赤外線になります。そしてモノの表面温度が変わらない限り、断熱材では熱放射は防げないのです。

赤外線を出さない技術  ・・・新技術との特徴差と気を付ける点

 放射熱の正体が様々な赤外線という光の一部であることは、“暑さの秘密”であばかれました。。では次の問題。どうやって赤外線を防ぎましょうか。考え方は大きく分けて二つ。放射熱の発生源に直接手を加えられるのであれば、赤外線が放射されない様に加工します。放射熱に細工ができないのであれば、放射された赤外線を防ぐ方法を考えます。まずは赤外線が放射させない技術について考えてみましょう。

 絶対零度よりも高温のモノは必ず放射熱を出す…とは言うものの、実は材質によって、放射量の大小が変わります。これを表す指標を放射率と言います。具体的には、同温の黒体が放出する光(黒体放射)のエネルギーを 1 としたときの比で表しますので、0~1の値をとりますが、これが物質により異なります。

 ちなみに赤外線の放射率と吸収率は等しいと言われています。面白いですね。

 さて、では物質による放射率の違いを比べてみましょう。断熱材で優れた特性を示していたウレタンフォーム等の素材の放射率は高く、放射熱を出しやすいのに対し、断熱性の悪かった金属材料は、逆に放射率が低いことがわかります。そしてアルミニウムなら黒体の10%未満にまで抑えることができそうです。

 最近よく目にする遮熱シートは、その多くが主成分はアルミニウムでできていて、日射の放射率も吸収率も低いことから、屋根の上に敷けば日射熱を直接反射して、屋根の下に敷けば、火照った屋根からの放射を抑えることができるので、屋根から入ってくる熱を予防できることになります。

 ところが最新の遮熱シートの一部はちょっと違う特性を持っています。それは遠赤外線の特性の違い。従来の遮熱シート(B社)と、最新型の遮熱シート(C社)の特性の違いを比較してみましょう。一目瞭然で、B社は遠・近赤外線の両方で吸収率(=放射率)が低いのに対し、最新型の遮熱シート(C社)は遠赤外線領域の吸収率(=放射率)が高く変化しています。C社はこの性能をアピールして『日射を反射させるだけでなく、屋根の熱を積極的に逃がし、さらに涼しく』と謳っています。確かにその通りの優れた結果です。

 ただ屋根の下に置いたり、太陽以外の熱源で使った場合はどうなるでしょう?早速70℃に熱したホットプレートに貼り付けて実験してみました。すると予想通り!アルミホイルや従来の遮熱シートでは放射熱が確認されず効果的であったのに対し、新型の遮熱シートはあまり効果が認められません。新型遮熱シートは、あくまでも太陽に対しては非常に効果的な様ですが、太陽以外の熱源に対して使うときは、注意が必要です。

 屋根の遮熱を上からするか、下からするか・・・。この辺は好みが分かれそうですね。

 私は、遮熱性能の長期信頼性を鑑みて、汚れや風・雨の影響を危惧する観点から、屋根の下から工事する方をお勧めしていますが、あなたはどちらを選ばれますか?

日射を遮る技術  ・・・反射か吸収か、それが問題だ!

 放射熱の発生源に直接手を出せない場合は、放射された赤外線が届かない様な工夫が必要になります。では、まずは手が届かない熱源の代表例である太陽の日射熱の対策について考えてみましょう。

 太陽からの眩しい光を遮りたい場合、一番簡単なのは鏡で反射してしまうこと、次が黒い紙や布で遮ってしまうことが有効だと簡単にわかります。ちなみに白い紙だと、眩しさはなくなりますが、暗くはなりません。これは光が紙の中を散乱して、相当量の光が抜けてくるためです。つまり光の眩しさを軽減するためには反射、吸収、散乱のいずれかの方法が有効ですが、きちんと遮るという意味では、反射か吸収の二択になります。

 ちなみに、反射による対策は一般的に非常に優れた遮熱効果を発揮しますが、全ての光を反射しますので扱いが難しいという欠点を持っています。逆に吸収による対策は日射熱を通過させないという意味では効果がありますが、遮熱製品自体は日射熱を吸収してとても熱く火照ってしまうことも多く、様々な不具合を生じてしまいます。

 日射対策で次に考えなければいけないのは、採光をどうするか?という点です。太陽の明かりも遮ってしまえばいい壁や天井であれば、可視光線や赤外線の区別を無視して全部遮ってしまえばよいですが、窓ガラスでは、なるべく採光(可視光線の透過)は維持したままで熱を遮りたいところです。ただ可視光線と赤外線はヒトの都合で区分されただけでほぼ同じ種類の光です。簡単に分けて扱うことが難しく、結果として様々な特性の製品が提案されています。その代表例として、ガラスに貼付する日射調整フィルムについて詳しく見てみましょう。

 性能を一概に決めれないからこそ、様々な物性の製品が提案されていて選ぶのが難しいと言われる日射調整フィルム。でも、選ぶ指標は遮蔽係数、可視光線透過率、可視光線反射率、日射吸収率の4項目だけを見れば十分です。そして公正に比較するために、これらの性能はJIS A 5759で厳しく規定されています。ではこれらの指標を用いて製品を比較する方法を見ていきましょう。

 遮蔽係数とは、簡単に言えば日射熱(主に赤外線)を通す割合で、可視光線透過率とは可視光を通す割合になります。そして同じ程度で遮れば似た数字になると予想されますが、実際はどうでしょうか?一般に販売されている様々な日射調整フィルムの遮蔽係数と可視光線透過率を比較したグラフを右に示します。ホントに様々ありますよね。だから上手に製品を選ばないと、後悔する結果になりかねません。では具体的に、選び方を見ていきましょう。

 遮蔽係数と可視光線透過率は、原則として対となる指標で、JIS A 5759でも一定の区分が置かれています。遮蔽係数では、0.40未満、0.40以上0.60未満、0.60以上0.85以下の3区分になります。遮蔽係数は小さいほど優秀ですから、それぞれの区分は『松・竹・梅』って感じでしょうか。可視光線透過率では、60%以上と60%未満の2区分になります。前者は“透明”、後者は“遮光”といった区分がわかりやすいかもしれません。

 例えば、事務所の窓ガラスが、西日も眩しいし暑さも対策したい!という場合は、『遮蔽係数<0.4 × 可視光透過率60%未満』の区分からお好みの製品を選べば良く、例えば、お店のショールームで透明なことが大前提で、でも遮熱したいという場合は『0.4≦遮蔽係数<0.6 × 可視光透過率60%以上』の区分から選ぶことになります。

 次に確認しておくべき項目を一つ増やします。それが可視光反射率になります。日射を遮る技術的方法は、反射か吸収か(あるいはその複合型)というお話をしました。様々な日射調整フィルムも同様ですので、結果として可視光の反射率も様々になっています。この反射率の変化は、窓ガラス改修後の外観の変化に大きく影響を与えますので、外観も気にする場合は、可視光反射率や色にも配慮する必要があります。

 普通のガラス(フロートガラス)は、淡緑色で可視光反射率は10%未満です。フィルムを貼付した後の可視光反射率が15%未満であれば違和感も少ないでしょうが、15%以上になると、ガラスへの映り込みが気になり始めます。そして30%を超えてくるとミラー調に見えてしまうようになります。敢えてハーフミラー(明るい方から暗い方を見るとミラー)にしたいのであれば、反射率の高いタイプを選びますが、そうでなければ、可視光反射率はなるべく小さいものを選びたいものですね。

 ただここで悩ましいのが、遮蔽係数と可視光反射率の関係です。先のグラフでは敢えて、可視光反射率が15%未満の製品を〇印で、15%~30%の製品を△印で、30%以上を×印で分類しておきました。すると一目瞭然で、遮蔽係数が小さいものはミラー調の製品が多いことに気が付きます。つまり、透明で、遮蔽係数も優れていてて、施工しても違和感が少ないフィルムという理想的な日射調整フィルムは、少なくとも今は存在しないということです。

 だから、遮蔽係数・可視光透過率・可視光反射率の3つの特性(とコスト)の優先順位をはっきりさせて、どれかの特性(かコスト)を我慢して、ベターな製品を選ぶのが大事になります。

 ちなみにこの考え方は、日射調整フィルムに限ったことではありません。いわゆる遮熱塗料でも同じと考えて頂いて結構です。私たちiPASTでは、様々な製品・技術の横並び比較についてもご相談を承っております。ご要望をお伺いしながら、ベターな選択について、簡単な比較であれば無料で、詳細な比較検討が必要であれば発生した経費は頂きますが、ご相談承っております。

 ただ我々は、正直申し上げまして、遮熱塗料によるアプローチは原則お勧めしていません。だって何かあった時の撤去が難しいですから。フィルム貼付なら、職人さんの手を借りる必要があるとはいえ、フィルムを剥がして原状復帰することが可能ですから。

 ちなみに私たちiPASTでは、透明遮熱型日射調整フィルムでは、iQUE 73FGを推奨しています。独自のXIR Technologyで、赤外線だけを選択的に反射するというこの日射調整フィルムは、難しいと言われている可視光線と赤外線を区別して、可視光線は透過して、赤外線だけを反射するフィルムだそうで、自分で物性を測定してもその通りでした。結果として遮蔽係数=0.50と優れた遮熱性を発揮しながら、可視光線透過率=69%と高透明で、可視光反射率も9%と違和感がありません。

 ただお値段が高いのがタマにキズ ^^;

 やっぱり、万能は日射調整フィルムってないですね。

 残りの特性である日射吸収率は?

 忘れていたわけではありません。これは、改修工事を行った後でのリスクとして考えなければならないガラスの熱割れリスクに関する特性になります。特に吸収型のフィルムでは、貼付したガラスが日射で熱くなりやすくなって、その熱でガラスがいつの間にかひび割れしてしまう危険性があります。このリスクの大小を決めるのが日射吸収率(日射熱取得率ではありませんよ!)になります。

 ただ熱割れリスクの予測は非常に難しい計算が必要になりますので、無理せず計算を専門家に依頼してください。

その他の放射熱を遮るために  ・・・赤外線もいろいろ。

 先ほどは放射熱の代表例である日射の遮蔽について詳しく考えてみました。次は、その他の熱源から放射された放射熱を途中で遮る方法を考えてみましょう。

 放射熱の正体は赤外線であることはすでにお伝えしました。では赤外線とは?赤外線については“暑さの秘密”で詳しくご説明しましたが、ここでもう一度整理しておきましょう。

 赤外線とは、可視光線の赤色より波長が長く、電波より波長の短い、ヒトの目では見ることができない光で、波長によって、近赤外線、中赤外線、遠赤外線に分けられます。近赤外線とは、波長がおよそ700nm-2500nmの光で、家電用のリモコン等に応用されています。そして太陽から放射された日射に含まれる輻射熱も、近赤外線に含まれます。中赤外線は、波長がおよそ2.5 – 4 µmの電磁波で化学物質の同定に用いられていますが、輻射熱から見れば、500℃~1000℃にまで熱せられた一部の特殊な熱源が放射する放射熱がこの範囲に含まれます。そして遠赤外線は、波長がおよそ4 – 1000 µmの電磁波で、温度500℃未満の全ての物質が放射する輻射熱がこの範囲に含まれるため、一般的に熱線とも呼ばれています。結局、太陽という熱源だけが近赤外線という特別な輻射熱を放射してることになりますので、太陽の放射熱だけを特別視して“日射(日射熱)”と呼んでいるわけですね。そしてその他の放射熱とは全て遠赤外線(4 – 1000 µmの電磁波)が対象となるわけです。

 遮熱材料の一部では、“赤外線カット率●●%”という記載を見ることがありますが、材料選定時は、まずはどの赤外線に対してなのか、カットできる理由は吸収するからなのか、反射するからなのかをよく確認しましょう(できれば反射・吸収スペクトルで確認したいですね)。そして遮熱したい相手の温度は大体何℃くらいで、どの波長の赤外線を“反射”しなければならないのかを確認し、適切な遮熱材料を選定しないと、遮熱効果があまり体感できない…という失敗になりかねません。

 参考までに、私たちiPASTが推奨している透明遮熱型日射調整フィルム“iQUE 73FG”の可視光線・近赤外線・遠赤外線の反射・透過スペクトルを調べてみました。左のグラフが紫外線(300-400nm)可視光線(400-700nm)近赤外線(700-2500nm)での反射率/透過率スペクトル、右のグラフが近赤外線(0.7-2.5μm)中赤外線(2.5-4.0μm)遠赤外線の一部(4.0-30μm)での反射率/透過率スペクトルになります。ちなみに、反射率(%)+透過率(%)+吸収率(%)=100%になります。

 詳しく調べてみると、高性能な日射調整フィルムとして開発されたはずのこの製品は、実は、遠赤外線領域までずっと、全ての赤外線を透過させない変わった特性を持ったフィルムであることがわかりました。但し赤外線を遮蔽するメカニズムは波長によって異なり、反射で遮蔽していたり、吸収で遮蔽したりしているようです。つまり遮熱したい場面によって、得られる現象は変わってきそうです。

 そこで次に、この測定結果を参考に、様々なケースでの放射熱の遮熱効果を予測してみましょう。

 効果を予測するためには、まず熱源を特定し、放射されている赤外線の波長を知る必要があります。次に、その特定された赤外線に対して、検討する遮熱材料の特性がどうなっているかを確認する必要があります。いくつかのケースで、これらの情報をまとめた結果が、下の表になります。この表では、まずは単純にピーク波長でどうなっているかを確認しています。

 色々計算してみると、やはり反射率が高い赤外線波長0.7-5.0μmに合致する高温に熱せられた熱源が暑さの原因となるような場合では、優れた遮蔽効果が期待できそうです。逆に吸収率が高い赤外線波長7.0-10.0μmに合致する20-140℃の熱源が厚さの原因となる場合では、高い遮熱効果こそ期待できるものの、赤外線を吸収してフィルム自体が熱くなってしまい、熱が再び再放射されてしまう可能性も検討する必要がありそうです。 

 実はこの表の事例、全て私たちiPASTで一度検討したことがある案件です。そして焼き鳥屋さんの事例以外は全てうまく対応できた案件でもあります。

 ん?焼き鳥屋さんではなぜ上手くいかなかったか?

 だって反射した炭火の輻射熱が、焼き鳥を焼く職人さんに集中してしまい、職人さんが熱中症になる可能性が高まりましたので。輻射熱を反射させるのも時には都合が悪いことを初めて経験した事例でした。

 所謂エコガラスは、複層ガラス構造で断熱性を高めて熱伝導による熱の出入りを抑制し、Low-Eガラスで遮熱性を高めて熱放射による熱の出入りを抑制しています。よく考えられた非常に素晴らしい断熱遮熱窓ガラスと言えそうです。

 Low-Eガラスは意外と赤外線吸収率も高いみたいですので、夏の遮熱(日射遮蔽)に重きをおくならLow-Eガラスを野外側に、冬の遮熱(放射熱)に重きをおくならLow-Eガラスを室内側に設置することが好ましいようです。ただ、暑さの対策事例集の第一の事例にあるような火照ったLow-Eガラスが熱さの原因になってしまう場合や、第七の事例のように、断熱性を高めてしまった分遮熱性が問題になってしまう場合等、遮熱断熱の対策に万能はないのかもしれません。少なくとも私たちの経験では、暑さ対策の方針はお客様ごとに千差万別でした。

だからこそ、現場毎に原因を分析し、対策にふさわしい遮熱対策を行う。

 確実な遮熱対策を行うためには、遮熱対策製品の目利きが何よりも重要だと考えます。

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